潜水艦の匂い|それは非日常の日常。想像力の射程を広げる試み、なんつって

潜水艦のこと
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こんにちは。

雨が降り始めたときのあの匂いに
どこか懐かしさを覚えるモトコです。

乾いたアスファルトが湿り出す匂いというか
埃っぽい匂いというか

あの特有の匂いには名前があるそうです。
ペトリコール
ギリシア語で「石のエッセンス」

わぉ!
ギリシア人にシン・キン・カン。

でね、
匂いの話ですけどね、

潜水艦にはその独特な匂いというのがあるらしいのです。

潜水艦ムック的なものをどんだけ見ても
わからないのは匂いです。
潜水艦内の匂いです。

察するに
あまり芳しいものではなさそうです。

で、どんな匂いなのか?

今回は
モトコのなけなしの技術と材料で
その辺を探るというか…(困)
想像する感じで…(汗)
こう思い出したりとかして…(焦)
ほのかにいきたいと思います。

臭いよね、申し訳ないけど

「潜水艦ムック」的なものをときに(密かに)入手します。

潜水艦内の匂いについての記述は、
サブマリナーの生活を紹介する中で
ほんの数行触れられているものから、
量は少ないながらも
一応ひとつのコンテンツとして扱われているものまでありまして。

まあ匂いなんてどうでもいいんだけど、
その強烈さゆえ
ネタとしての地位をそこそこキープしている印象を受けます。

要するに重油と体臭の匂いらしいですが
あんまり説明的な文章じゃなくて
ほんとうに匂ってきそうな
そんな臨場感あふれるリアルな表現を
映画や小説の中に求めてみた。

映画「眼下の敵」より

Uボート艦長シュトルベルクが
部下にして戦友のハイニにアルコールを勧めながらこう言います。

艦長
艦長

重油と汚水とカビの味!
Uボートの味だ。

そしてひと口飲んだ直後の艦長の表情。
舌出してる!
マズそう…

いや、さすがにビンに入ったウィスキー(だかブランデー?)まで重油風味になるわけない!
とも思いますが、長く潜水艦乗りをして戦争にも飽きてきた、早く家に帰りたいこの時の艦長の心境を考えると、そんな味わいにもなったのかも!?

この映画は古いこともあり
乗組員の薄汚れたシャツとかみると
艦内の蒸し暑さや水の貴重さがわかります。

で、重油の匂いっていうのは
ガソリンとか灯油とかあんな感じ?
とりあえずそっち方面の匂いと汚水とカビの匂いに加え、機雷と圧壊の恐怖もあるわけで。

ただカワイソウ(>_<)

小説「約束の海」より

山崎豊子の未完の小説。
海自潜水艦と釣り船の衝突事故をモチーフとしたお話。

おふざけブログにこれ持ってきていいのか迷いましたが、
確か最初の方に、匂いに関する文章があったことを思い出しました。

自分では気付かないが、長期間、潜水艦に乗っていた潜水艦乗りたちからは、ディーゼル・オイルと艦内の生活臭がまざった臭いーディーゼル・スメルがするらしく、電車やバスで隣り合わせになった客たちは、密かに息を止めて、席から離れて行くことがあるようだ。

山崎豊子「約束の海」新潮文庫 より引用

自分の匂いなのに、自分では気付かない…
ヒトは異臭(=身の危険)に気づくために、自分のクサさには鈍感にできているそう。

艦内の生活臭とは?

潜水艦の厨房は一日4食作るため
ほぼフル稼働だと聞いたことがあります。
給食室と野球部の部室の臭い?

モトコの本には、機械類の匂いのほかに
体臭と調理場とトイレの匂いが混じるとも書いてありました。
そこは混じりたくないところ。

だけど、ヒトの鼻は慣れると言うし。
意外とナカの人は平気なのかな。
人は去ってゆくのに。

潜水艦の匂いは艦内だけに留まらず、
そこにいた人に染み付いてしまうのですね。

洗濯して風呂入ったくらいで
落とせるのかしら。
原潜はこういうことに悩まないんだろうな。

小説「クジラの彼」より

私は男性だと思っていたのですが、
女性の作家でした、有川浩

「クジラ」というのは、
潜水艦乗りの冬原と出会った主人公のOL聡子が、
潜水艦を喩えていった言葉。

二人は付き合うことになるのだが、
潜水艦乗りとの恋愛は
音信不通の超遠距離恋愛に等しく…っていうお話。
試されるふたり。

この本は短編集ですが「クジラの彼」には
匂いに驚く聡子の様子、
および匂いにまつわる二人のやりとりが
なんと3ページ半にわたって書かれているのです。

玄関ポーチへ駆け込んだ途端、何か嗅いだこともないような異臭がした。
油臭いというか煙草臭いというか汗臭いというか男臭いというか。

有川浩「クジラの彼」角川文庫 より引用

嗅いだこともない、か。

旦那が一日中着てたTシャツを2〜3日放置しておいても
似たようなもんじゃないかと思っていたが
やはりゼンゼン深みとか芳醇さが足りないかもしれない。

「・・・あーあ。服に臭いが移るよ」
「いいよ」
ホントはよくないけど。冬原の胸に顔を埋めたまま聡子は離れなかった。毒食らわば皿までだ。

有川浩「クジラの彼」角川文庫 より引用

ここは状況的にこうするしかなかった場面なのですが、
いちばんよくわかるのは
潜水艦臭を凌駕する二人のリア充臭かも。
「リア充」ってまだ使用可能?

「目に刺さる臭いって初めて」
「そりゃもう、電車で半径5m以内が無人になるからね。」

有川浩「クジラの彼」角川文庫 より引用

「目に刺さる」って刺激臭にしか使わないと思う。

付き合って日が浅く、
久しぶりに再会してそんな臭いしてたらショックだな。

でもそんなのも全部愛しいんだという方向で
自分の中で折り合いをつけるか。

やはり電車に乗ると周りから人がいなくなるらしい。
「約束の海」同様の情報が得られた。
信憑性高。

という感じで
強烈なだけにネタになるんですよ、潜水艦の匂い。
クサいってだけでちょっとおかしみもあるし、
人間らしいし。

クジラに乗る人には日常でも
乗らない人には非日常。

視覚は高級、味覚は低級。嗅覚は?

むかし「味覚の虐殺」っていう講義を聞いて
まったくビヨンドコンプリヘンションだったのですが、
今回の匂いネタでふわっと思い出しました。

これはドイツの哲学者カントが考えたことで。
「判断力批判」ていう彼の哲学書がある。

人間の五感は
視覚→聴覚→嗅覚→触覚→味覚の順で
対象との距離が近くなるごとに
高級なものから低級なものになる…なんていう話だったと思うのです。
しかも味覚は唾液が介在しないと成立しない…しないよね。
うろ覚え。 

これらのうち芸術を楽しめるのは視覚(絵画)と聴覚(音楽)だけで
嗅覚、触覚、味覚は生きるためだけに必要、、、みたいな、話だった、ような…
虫だって目は見えないけど触覚はあるとかいるよね

そうはいっても彫刻は手で触れて作るしな。
料理は芸術って言うじゃない。見た目もだけど味じゃない。
お香の文化とかあるじゃない。鼻大事じゃない!

と言いたくもなるわけで。

嗅覚は、

カント的には低級ゾーンのようですけど、
モトコ的には匂いによって
子ども時代とか
季節感とか
人の気配とか記憶を思い起こさせる、
懐かしくミステリアスな感覚ってことで位置付けたいと思います。

終わりに:微妙な違いを嗅ぎ分けたい

先日美容院でハンドマッサージをしてもらったとき、
アロマオイルの香りがいつもと違うことに気づかなかったのです。
言われて気づいた…

こういうの
スッと気づける人になりたいのですが。

髪の色を変えたとか
いつものピアスと違うとか
表情とか反応とか
言葉の嘘だとか
遅いとか軽いとか
行動の些細な変化とか
気持ちの変わり目とか
人の気遣いとか
自分の態度とか…

あと、
雨の匂いとか。

雨の降りはじめと雨上がりでは
匂いが異なると思いませんか?

雨上がりはこもった感じというか
土っぽいというか。
土多めの場所で子供時代を過ごした私だからそう思うのでしょうか。

そして
その雨上がりの匂いにも名前があるそうです。

ゲオスミン
ギリシア語で「大地の匂い」
ほら!

地中のバクテリアが作る匂い
カビっぽい匂い
畦道とか、公園とかw

違いなんかわかんねえ、
というガサツで図太い人よ。

今年もまたやってくる鬱陶しい梅雨を機に
己の嗅覚の可能性
挑んでみてください。

ではまた!

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